最新施設園芸の未来をクボタeファームやぶで見てきた

2017 . 08 . 31 / Thu

TECHNOLOGY

日本のトマト農業はここまで進化した 最新施設園芸の未来をクボタeファームやぶで見てきた

文:クボタプレス編集部

スーパーで一年中必ず販売されている野菜のひとつ、トマト。実は、トマトが日本で一番産出額の多い野菜だと、ご存じでしたか? なんと、平成27年(2015年)の産出額は2,434億円! いつの間にこれほど野菜の主流になっていたのでしょう。今回は、身近なようで知られざる日本のトマト事情について、探ってみました。

日本とトマトの歴史

初上陸から食用生産されるまで

日本のトマトの歴史は江戸時代までさかのぼり、外国から観賞用として渡来したことに始まります。この時代、食用にされることはありませんでした。その姿から唐柿、赤茄子などと呼ばれ、将軍家のお抱え絵師である狩野探幽の『唐なすび』の題材になっていることから、当時のトマトがどのようなものだったか、伺い知ることができます。食用にトマトが生産されたのは、それから約200年後の明治末頃。しかし、日本の高温多湿の気候はトマトには適さず、天候に左右されるため、生産量は安定しませんでした*。

ハウス栽培の進歩で本格的な生産開始

1950年頃から、ビニールフィルムやガラスのハウス栽培技術、トマトの品種改良が発達し、生産量が格段に増加。食文化の多様化によって食べ方も生食だけでなく、トマトジュースなど加工製品の需要が伸びました。また、この時期から生食用トマト、ジュースなどの加工用トマトが分けて栽培されるようになります。
1980年頃にはトマトの生産量はピークを迎え、年間90万tを超えるほどに拡大しました。

ハウス栽培は降雪地域でのトマトの栽培も可能にしました。写真は2017年1月頃のeファームやぶのトマト栽培を行っているビニールハウス


*明治42年(1909年)のトマトの生産量は、1ヘクタールあたり約13t。それに対して、トマトの農業技術が発展した昭和35年(1960年)の生産量は、1ヘクタールあたり約18.5t。1ヘクタールあたり5tもの収穫量差がみられる。(出典:総務省統計局ホームページ

近年のトマト事情

大玉、ミディ、ミニと呼ばれるサイズの分別に加えて、ブラック、イエロー、オレンジ、グリーンなどのカラートマトや、糖度の非常に高いフルーツトマトと呼ばれるもの、トマトの代表的な栄養素であるリコピンの含有を高めたものなど、見た目以外にも特長のあるさまざまな品種が現れ、トマトの種類を選んで買う時代になりました。国内生産量は70tを維持。生産量の下降をたどっている国内野菜が多いなか、異例ともいえます。一方で、他の農作物と同様に、農家の高齢化に伴う作り手の減少が懸念されています。

トマト農業の現場 日本のトマト栽培は進化し続けている

海外と比較して日本は季節の気温差が大きく、高温多湿であり、また耕地面積も限られているため、生産量を爆発的に上げることは困難です。農家が安定した収益を得るためには、収量だけでなく、トマトに付加価値をつけて単価を上げることが課題となります。

先日の記事で取り上げたクボタeファームやぶでは、2016年の開設時よりトマト生産に取り組んでいます。(「生産から販路までのソリューションのモデルケース」を作りたいと考えていたクボタeファームやぶで、なぜトマトを作ることになったのか。背景には、耕地面積を取れない中山間地域で収益性の高い「施設園芸」を行う必要性が。そこで付加価値ある生産の可能な農作物が、まさにトマトでした。)以下、本記事後半では、クボタeファームやぶのトマト栽培最前線の現場をもう少し掘り下げていきます。

日本の医療技術が生んだ画期的なトマトづくり

クボタeファームやぶでは、アイメック農法による高糖度トマトの生産が、付加価値を上げる一つのポイントになっています。2008年頃から実用化されたアイメック農法は土を使わず、これまでの水耕栽培とも違い、特殊なフィルム上でトマトを栽培します。

このフィルムは、日本が医療用として研究を重ねてきたハイドロゲルの技術を転用したものです。ハイドロゲルは、再生医療や人工血管などの医療分野で研究されていました。そのハイドロゲルでできた薄いフィルムが、農業に応用されました。

ナノサイズの穴が無数にあるハイドロゲルフィルムは、水や養分は通しても、穴よりも大きい細菌やウイルスを通しません。水耕栽培で野菜の病気の発生・拡大を防ぐには、水の殺菌など衛生状態を保つ機材が必要でした。一方、アイメック農法では不要となります。また、フィルムの上で農作物を育てるため、土づくりは不要で、連作障害や残留農薬による土壌汚染がなく、場所も選びません。

アイメック農法によるトマト栽培、このフィルムの上で栽培されることで、トマトの根もフィルム内に張り巡らされるように伸びていく

難しい土づくりがないことは、新しく農業を始めたい人に導入しやすいメリット。アイメック農法の一番のポイントは、フィルムの小さな穴によって、その下にある水分や養分の吸収量を制限できることです。作物に与える水分や養分を極力抑制すること(水ストレス)で、糖度の高いトマトが容易に作れます。

やみくもに取りかからず市場を調査し、需要の高い品種を選ぶ

アイメック農法による初年度のトマトづくりに際し、クボタeファームやぶでは、ミディトマトの「フルティカ」とミニトマト「小鈴」を生産しました。なぜこの品種を選んだのか、プロジェクトの立ち上げ時から全面的に関わっている近畿クボタ(現 東海近畿クボタ)・事業戦略推進部の高橋萌さんにお話を伺いました。

「このハウスが完成して、最初にどの品種のトマトを植えようか検討したとき、まずは甘くて需要も多い『フルティカ』でいこうと決まりました。さらにいろいろと調べるうちに、『小鈴』は需要があるのに、市場にはあまり出回っていないことを知ったんです。今後、東海近畿クボタがお客様に『こういうトマトを植えてみてはいかがですか』と提案していくことを考えれば、少しでもデータが多いほうが有益。一年に一度の栽培ですし、せっかくだから二棟あるハウスで別のことをしよう、と両方とも植えてみることになりました」(高橋さん)。

人気で需要の多い品種選定に、甘いトマトが作れる最先端農法。理論上はそうであっても、農業に従事したことのない人が、実際に品質の高いトマトを作れるのか。不安をいだいて当然でしょう。ところが、スタッフはまったくの農業初心者にして、初収穫で野菜ソムリエ金賞受賞。商品としてのテスト販売においても、大阪市内の百貨店などで売れ行きがよく、入荷待ちの状態にあるとのこと。結果は絵に描いたようなモデルケースとなりました。クボタeファームやぶ ファームディレクターの梶原理史さんは、このように受け止めています。

「この1年、非常に試行錯誤を重ねながらも、良いトマトを作ることができました。でも、目指すのは次のステージ。このクオリティを来年も続けられてこそ、農家の方におすすめできる、安定した『農業ソリューション』としての成立だと思います」(梶原さん)。

今年eファームやぶで収穫されたフルティカ

トマトに限らず、施設園芸の1年目は病害虫のリスクが少なく、比較的順調に栽培できるそうです。来年も引き続き、安定しておいしいトマトを生産するために、果敢な挑戦は続きます。

日本にトマトが伝来して約400年あまり。決して気候に適した植物ではなかったものの、農業技術の進歩でもはや場所を選ばず、未経験者でも栽培できるようになりました。現在は国内消費が中心の国産トマトですが、さらなる技術の進歩でトマト農業がより盛んになり、高品質で安定した生産ができれば、市場を海外に拡げる可能性も。日本のおいしいトマトが、世界中の食卓で食べられる――そんな未来への期待が高まります。

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