意見や本音を引き出せるコミュニケー ションと働きやすい環境づくりが一番

2018 . 04 . 27 / Fri

PEOPLE

連載第4回:初めての海外駐在でつかんだ「マイ外国語上達法」! 〈タイ語編〉 意見や本音を引き出せるコミュニケー ションと働きやすい環境づくりが一番

写真・文:クボタプレス編集部

グローバル市場で活躍する日本人ビジネスパーソンの全員が、必ずしも最初から外国語に堪能だったわけではありません。語学力に不安を抱きつつミッションを背負って海外へ赴任し、どのような方法で“現場での語学力”をアップさせ、国境をまたいだ仕事を進めていったのか。そんなビジネスパーソンの「マイ語学上達法」をシリーズでお届けします!

第4回〈タイ語編〉に登場していただくのは、Kubota Engine (Thailand) Co., Ltd. [クボタエンジン(タイランド)以下、KET] に赴任して約5年、人事コーディネーターの笠嶋祐二さんです。そこかしこに花々が咲き、職場や学校で新たなスタートを迎える春まっさかりの日本と、タイのバンコクは時差たった2時間。しかし、気候はずいぶん異なります。1年を通して最も暑い季節、「暑季」にもうすぐ突入しそうな日の午前中、編集部は現地オフィスを訪ねました。

他国での業務経験なし、突然やって来た転機

「グローバル・メジャー・ブランドの実現」を目指すクボタは、アジア重要拠点の一つ、タイにおけるエンジン一貫生産体制を確立すべく、2011年2月にKETを設立しました。翌年10月よりディーゼルエンジンの量産を開始。現地およびASEAN地域のニーズに適したエンジン製品/技術サービスの提供とラインナップの強化、スピーディーな市場投入を図っています。
中国やインドと並んで経済成長を続けてきたタイでは、農機・建機・産業用機械の需要が高まり、エンジン市場も拡大中です。KETは、トラクタ・コンバイン・建機といった自社製品搭載用のほか、日米欧やアジア諸国の建機、産業用機械メーカーへの外販も行うグローバル供給拠点の位置づけ。設立後の若い組織を人事・総務・法務の面で整え、体制を盤石にすることは急務でした。

「2013年のある日、人事部付トレーニーとしてタイに赴く話が突然に持ち上がりました。『立ち上げて間もないKETで、海外現地法人の業務に必要な能力をしっかり開発してくるように』とのことでした」(笠嶋さん)。

トレーニーは、駐在員の育成を主な目的に掲げ、若手や幹部候補生が海外拠点で1年間研修を行うシステムです。笠嶋さんの業務ミッションは、担当分野の制度整備と現地化の推進でした。入社以来人事・総務に携わるプロフェッショナルであっても、いきなりの決定で赴任先は非英語圏。言葉の準備に慌てたのではと察した通り、「往きの飛行機で『สวัสดีครับ(サワッディークラップ)こんにちは』『ขอบคุณครับ(コップンクラップ)ありがとう』『ถูกต้องมั้ยครับ?(トゥックトンマイクラップ?)これで合っていますか?』[※ครับ クラップは“~です”の意味で、男性が使います。女性はカ]の3つを覚えたくらい、語学は後付けになりました」と笑って当時を振り返ります。

経済成長に伴い、エンジン市場拡大中のタイ。エンジン鋳物部品の製造(SKMT)から加工・組立までをワンストップで行い、「グローバル・メジャー・ブランドの実現」に向けて邁進するクボタを支えています。

経済成長に伴い、エンジン市場拡大中のタイ。エンジン鋳物部品の製造(SKMT)から加工・組立までをワンストップで行い、「グローバル・メジャー・ブランドの実現」に向けて邁進するクボタを支えています。

「実はトレーニー研修が、入社5年目にして初の海外勤務だったんですよ。でも旅行は好きで、これまでに20カ国くらい訪れています。重工メーカーや石油化学プラントなど、都市開発・インフラ整備に密着した分野に貢献したくて、クボタを志望しました。入社内定を受けてから、研究室でボルネオ島に3カ月間滞在した時、『クボタのトラクタがないと、村の生活は成り立たない!』と村の人々が言うのを聞き、とても誇らしかった――そうして、クボタでのキャリアがスタートしました」

国外のユーザーがクボタ・クオリティに寄せる信頼を体感した出来事は、何年経っても印象に残っていると言います。根底にあるクボタの“世界に通じる強み”が、赴任の際にも気持ちの支えになっていたでしょう。

「タイ語のほうは最初、全然通じなかったんですけれども(笑) トレーニーのプログラムには、3カ月間の語学学校通学とホームステイが組み込まれています。その間、学生のように朝から夜までクラスで受講し、業務はありません。まずは学校の先生やホストファミリーを相手に辛抱強く練習して、使える言葉やコミュニケーションの幅を広げていきました」

トレーニーから正式な現地駐在コーディネーターに

語学については、また後ほど詳しく伺います。さて、タイ語の基本を習得する期間を経て業務に入り、トレーニー終了後は正式な駐在に移行されました。

「当時の人事総務コーディネーターの帰国が近づいた2014年6月頃、KET社長(当時)からその後任のオファーを受けました。トレーニー期間が8月に終了すると1カ月だけ本社人事部に在籍し、翌月に駐在員として着任。今日まで、トータルで約5年タイにいますね。現在はKETで人事総務・安全・環境、ならびにSiam Kubota Metal Technology[エンジン鋳物の生産拠点サイアムクボタメタルテクノロジー、以下SKMT]で人事総務のコーディネーターを務め、タイ人のマネージャーと協力しながら実務を行っています」

タイ国内複数拠点の人事総務に関する各種制度やポリシーの設計業務をタイ語で?

「日本語を解するスタッフは、通訳5人・オフィスに1人と、KET立ち上げの際に筑波工場で研修した“逆トレーニー”が1人。彼らと接する時以外は、努めてタイ語にします。英語は確かに便利なものの、発信側も受け手側も非母国語でのコミュニケーションは、危うさをはらみます。人事業務は他部門に比べると、数字やモノなど一瞥で分かる要素が少なく、制度づくりから労務面談まで、微妙な意味合いの配慮・共有が必要です。双方が英語に堪能ならば問題ありませんが、『意味が分かる』程度だと、凡ミスと確認で二度手間になりかねないと感じました。どちらかにとって母国語であれば、言葉足らずを補ったり、隠れがちな意味を察したりできるでしょう。私がタイ語を継続して学ぶ業務上の大きな理由は、そこなのです」

穏やかで親しみやすい一方、目上の人を敬って控えめなタイのお国柄。それを理解したうえで、意見と本音を引き出せる信頼関係の構築・働きやすく安全な職場環境づくりに努めています。

穏やかで親しみやすい一方、目上の人を敬って控えめなタイのお国柄。それを理解したうえで、意見と本音を引き出せる信頼関係の構築・働きやすく安全な職場環境づくりに努めています。

とにかく発音が難しい! なかなか伝わらず、ショック

安全や環境に関する場面では、パトロールや設備本質安全化の施策、クボタのルールとその背景を現場のスタッフにタイ語で説明していると聞きます。今年2月には、通訳兼コーディネーターの役割で、タイ人環境担当者と共に日本へ出張する活躍でした。そんな笠嶋さんも、赴任当初は言葉の壁にぶつかって悩んだのでしょうか。

「語学学校の先生やホストファミリーといった身近な相手と通じ合えるようになり、初めて現場に出てみたら、言われることは聞き取れないし、こちらの話は伝わらないし…… 結構上達したかと思っていただけに、ちょっと傷つきました。タイ語は発音が本当に難しくて、いまだに苦労します。例えば、“カウ”という単語には『入る、ごはん、ニュース、9』など、日常でよく使う意味がいくつもあり、ネイティブからすると発音はそれぞれ異なりますが、外国人学習者には識別しにくいのです。発音以前に、ヒアリングの克服に時間がかかると思いました」

大人になって新たに学習する言語で、軽微なアクセントやイントネーションの差異をマスターするのは、至難の業。現場の同僚と話せるレベルに達するまで、どんな工夫をしたのか気になります。

「早々にヒアリングのスキルを身につけることが厳しいので、『言いたい内容を100%伝える』ことを目標に。具体的には、ぽつんと単語で終わらせずに、センテンスで話す習慣を前提にしました。そうすると、少々発音を間違えても、前後の言葉から意味を汲んでもらえますから。もし日本語で“ハシ”としか言わなかったら、何だか唐突で分からなくても、食事の話をしていたら『箸』だと察して、会話が続きます。すると、次第に言葉の選び方に慣れ、その国ならではの気遣い・好き嫌い・興味などが理解できてくるものです。自分がいる場所や周りの人について知ると、生活の中に安心や楽しみを見出せますよね」

社内の自販機。実は辛い食べ物がそれほど得意でない笠嶋さんですが、文化交流は楽しんでいるそう。
社内の自販機。実は辛い食べ物がそれほど得意でない笠嶋さんですが、文化交流は楽しんでいるそう。
タイ語検定はトレーニー期間中に4級を取得。今では夫婦揃って、タイ語・英語とも日常会話に困らず。
タイ語検定はトレーニー期間中に4級を取得。今では夫婦揃って、タイ語・英語とも日常会話に困らず。

赴任前の自分にメッセージを贈るとしたら

ここで編集部から、マイ外国語上達法ページ恒例の質問です。もしタイへの赴任が決まった直後の自分自身に会えるとしましょう。よりスムーズな現地生活と業務を可能にするために、どのようなアドバイスを贈りますか。

「『もっと日本語と業務知識を磨いておきなさい』と言いたいです。日本語が未熟だと、いくらタイ語を覚えたとしても、話のアプローチやまとめ方が下手なままで、タイ人には通じません。また、日常の話題も業務の共有も、自分自身が内容をしっかり理解していることが、上手に楽しく説明する秘訣だと考えています」

KET工場の従業員は約400人。現地でのクボタの認知度・信頼性・職場の定着率の高さは抜群です。
KET工場の従業員は約400人。現地でのクボタの認知度・信頼性・職場の定着率の高さは抜群です。
「こちらでは、ノウハウでなく“ノウフー (know-who)”なんです」と笠嶋さん。信頼がすべての基本。
「こちらでは、ノウハウでなく“ノウフー (know-who)”なんです」と笠嶋さん。信頼がすべての基本。

語学力アップのためにしている工夫があれば、教えてください。

「英語は書類やメールで使用するだけではありますが、日曜日に英語の語学スクールに通ったり、日本語・タイ語・英語3カ国語の辞典を勉強に用いたりして、スキルをキープしています。タイ語は日本語と同様、他国でほとんど通じないので、やはり英語の汎用性は魅力ですね。
タイ語を吸収するには、“よく使う/耳にするけれども意味の分からない単語”に出会ったら、必ずその場で相手や周りにいる誰かに聞いて、メモしています。そして、すぐに使ってみます。意味やニュアンスの異なるケースが多く、間違って覚えてしまうのを防げます。例えば、『心配する』という意味の単語を尋ねた時の答えが、“ペンフーアン”と返って来ました。会話の中で早速使ったところ、同僚が微妙な表情を浮かべます。理由を聞くと、“ペンフーアン”は世話をする・面倒を見る、といったニュアンス。この数値で大丈夫だろうか? と心配するのは“ガンウォン”が適切だと教えてくれました。そこでまたメモを取る→使う。その繰り返しです。
タイ人は総じて穏やかで話しやすいですから、積極的に言葉を交わし、語彙をもっと豊かにしていこうと思います」

充実の福利厚生制度を設計した苦労が実り、従業員の満足度やモチベーションが向上。約400人のうち半数が日本語学習のクラスを希望した、驚きのエピソードもあります。

充実の福利厚生制度を設計した苦労が実り、従業員の満足度やモチベーションが向上。約400人のうち半数が日本語学習のクラスを希望した、驚きのエピソードもあります。

最後に、今後の抱負を聞かせてくれますか。

「フレンドリーな気質の一方、タイの文化では目上の方を敬い、上司に公然と意見するのはあまり良しとされていません。オフィスや現場で『分かりますか? 質問があれば聞いてくださいね!』と呼び掛けても、遠慮がち。意見や本音を引き出すまでに、時間とコツと信頼関係を要します。それこそが、人事に不可欠な真のコミュニケーションですね。そういった独特の風土や心情も熟知しつつ、皆が高いモチベーションで業務に臨める、働きやすく安全な環境づくりを第一に心掛けていきます」

SHARE

カテゴリ人気記事ランキング TOP5

ページトップへ戻る