亜熱帯の島で、甘いフルーツトマトを育む ~沖縄発・新しい農業のかたち~

2018 . 09 . 28 / Fri

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消費者もバイヤーも味に太鼓判! 亜熱帯の島で、甘いフルーツトマトを育む ~沖縄発・新しい農業のかたち~

文・写真=クボタプレス編集部

青い海と空が果てしなく広がり、白いサンゴ礁の砂浜にまばゆい太陽が降り注ぐ。一年を通じて温暖な沖縄は、日本列島で亜熱帯気候に分類される唯一の県です。「一度は訪れてみたい!」と多くの人があこがれる、南国情緒あふれる地。実は、その気候特性と地理的な条件から、他県とは異なる苦労を重ねて農業を営み、地産の食料を供給しているとご存じでしたか。
クボタファームのある糸満(いとまん)市は沖縄本島の最南端に位置し、農業と畜産が盛んなエリア。夏季には気温30℃・湿度80%を超える蒸し暑さが続き、台風の通過・接近にたびたび見舞われる、隆起サンゴの台地です。「暑さに弱くて生産できず、ごく最近まで県外からの仕入れに頼っていた野菜が、“ある農法”によっておいしく作れるようになった」と評判を聞き、編集部は現地に駆けつけました。

時代のニーズに適した実証農場「クボタファーム」

先進国のうち最も低い水準とされる日本の食料自給率は、ここ20年余り、40%程度にとどまります(※農林水産省調べ)。農家のほとんどを占める高齢者の離農と世代交代の難航、新規参入のハードルの高さに加え、農地の集約化や耕作放棄地の解消など、問題が山積した厳しい状況から、なかなか抜け出せません。長年日本の農家と共に歩んできたクボタは、トラクタやコンバインの開発・製造をはじめとする現場作業の直接的支援を超えて、“持続可能な農業経営モデルを提案し、地域を活性化する機会をつくり出す”事業を展開。全国に「クボタファーム」を開設して、農業改革特区での農場廃校跡地を活用した観光農園を運営するなど、各地域に根差すさまざまな農業課題に貢献しています。

逆境から“沖縄の代表作”を生み出す意気込み

――南九州沖縄クボタが、クボタファーム糸満をオープンしたのは、約2年前のこと。初めに、立ち上げの背景を聞かせてください。

「他県同様に沖縄も、かねてから農業の担い手不足や休耕地の問題を抱えていました。さらに、亜熱帯気候と土壌・水の特性などから、生産に適した農産物が本州とはやや異なります。ここでの農業は、主にサトウキビ栽培・畜産・果樹・花卉・野菜(施設園芸)などです。そのなかで、新しい農業の提案のために検討を進めていたのが、未来型施設園芸。国の補助金で作られた大型H鋼ハウスの遊休施設を再利用し、モデルケースとなるべく、クボタファーム糸満をオープンしました」(以下、南九州沖縄クボタ クボタファーム糸満 山元 壽さん)

『糸満市産フルティカとまと』販売の様子。「クボタファーム糸満のトマトは、甘くて濃厚なジュレが特徴」と謳う逸品は、すぐに売り切れるほどの人気と多くのリピーターを誇ります。
沖縄の暑い夏季にも高糖度のトマト栽培を安定して行う、クボタファーム糸満の施設。台風の脅威に備えた強度設計で、最大70メートルの風速にも影響なし。

――クボタファーム糸満の発足時、施設園芸で吟味された側面は?

「新しい農業のモデルケースを目指すにあたって、早期に収益を上げられることが重要なポイントでした。気候が温暖な沖縄は、暑さに強くない野菜の栽培に不向きで、トマトや葉菜類*はどうしても県外からの仕入れ頼みです。輸送費がかかりますし、店頭やテーブルに並ぶ頃には、残念ながら鮮度も食味も落ちてしまう。主な生産地から遠い、南国の離島ならではの悩みでしょう。また、沖縄では商業や観光といった第三次産業が85.9%も占めていることを考慮しました。輸送コストにとらわれず、産地直送の鮮度や味、従来は作りにくかった野菜を沖縄に訪れた方々に提供できたら、まさに役割を果たせるのではないかと考えました」

――“生産しにくい”を「需要が高く、将来性が高い」のように、逆転の発想で捉えたのですね。

「しかしながら、単に施設園芸で生産するだけでは、新しい農業の提案とは言い難いです。地元で育てにくいミニトマト、なかでも糖度の高いフルーツトマトの生産を目標とし、栽培にはアイメック農法を採用しました。ハウス栽培で温度管理がしやすく、特殊なフィルムを使った水耕栽培は、難しい土作りが不要。耕地面積・収量は限られても、ミニトマトに“高糖度”の付加価値を創出することによって単価を上げられる、大きなメリットがあります。それらにフォーカスして、甘いフルーツトマト『フルティカ』の生産を沖縄で行うノウハウの実証と構築を目指し、クボタファーム糸満の挑戦が始まりました」

*葉の部分を食用とする野菜。白菜・小松菜・ほうれん草・キャベツ・レタス・ネギ・ニラなど。

クボタファーム糸満のトマトのハウス内

オープン2周年を迎えたクボタファーム糸満。昨年は次シーズンの植え付けに合わせて近隣住民を招待し、子どもたちに甘いトマトの収穫体験を楽しんでもらうイベントを開催するなど、地元ですっかり親しまれる存在に。

冷房と適温の水、欠かせない暑さ対策

――トマトと暑さの関係は、どれほど厳しいものなのでしょう? ハウス栽培にすれば、容易にコントロールできますか。

「4月を過ぎたら、もう暑い季節が始まるんですよ。ビニールハウス内の温度も高くなって、てきめんにトマトは元気をなくします。そこで、ハウスの中に太陽光が入る量を調節したり、ミスト噴霧と換気を組み合わせたりして、温度の上昇を制御します。夜の気温が20℃を上回る時期が来ると、トマトはせっかく昼間に作ったエネルギーを消費して生きようとしますから、冷房が欠かせません。ずっと冷やしてあげることで、やがて糖分に変わるエネルギーが、失われず実まで届くのです。アイメックフィルムの極めて小さな穴から、毛細根の発達した健康な根が最小限の水分を吸って成長している効果もあり、高い糖度やその他の栄養成分を含むすぐれた品質が得られます。
甘さの目安は、市場に出ている一般的なトマトが糖度5~6度であるのに対し、フルーツトマトはおよそ8度以上。クボタファーム糸満では、特定の目標値は設定していないものの、私たちの商品は平均でもそれを上回っていると思います。『地元産でこの味と鮮度ですか』と皆さん驚きつつ、とても喜ばれるので、手塩にかけて育てるかいがありますよ」

――今夏はとりわけ苦労されているのでは。

「天候不順で雨が非常に少なく、猛暑がいちだんと堪えますね。地表と水道水が過度に温まると、好ましくない温度の水を吸って、根が傷んでしまうおそれが。今朝の水温は、なんと30℃も! こうなったとき、水道水をトマトに適温の20℃くらいにして、すぐハウスに引く対策が取れる仕組みを整えている最中です。このような課題に対しては、オープン以来、クボタグループの研究開発・企画営業など全社を挙げて取り組んでいます」

アイメック農法で育ったトマトは甘くて美味しいだけでなく、栄養成分も豊富に含み、高い評価を得ています。
雨時には除湿、夏季には夜冷で温度・湿度を下げるヒートポンプでハウス内の環境を維持。高い糖度の実を育てます。

台風・土地・水質――自然とのかかわり

――沖縄で暑さ以外にも避けて通れないのは、台風です。どのように備えていますか。

「たいがい、台風のたび覆っているビニールを全部降ろさなければ、施設そのものが倒壊しかねないです。しかし、トマトの生育と台風シーズンは重なるため、作業を休止するわけにはいきません。それで、最大70メートルの風速にも被害を受けない、驚異的な強度設計のハウスを格安でお借りし、安全性もコストも確保しています。台風の直撃を避けやすい高台か山がちなエリア、なおかつ、栽培には水を使うので、水質が良い/水道を引けることは必須。街に近く、移動時間を要さない。それらの立地条件にも恵まれました」

――土地や水について、もう少し教えてください。

「糸満市のある沖縄南部は隆起サンゴ礁の島で、土台は炭酸カルシウムからできています。そこを通る地下水は、カルシウムを多分に含む硬水です。周囲にはサトウキビやトウモロコシ畑があり、肥料も地下水に溶け込んできます。そのうえ、ここは海に程近くて海水の影響も。それでは私たちが使う肥料のバランス設計が損なわれますから、地下水を諦めました。本来、水道水を使うのが一番なんです。近くの水源から引いていますし、衛生面で雑菌が入る心配も無用。肥料の成分も設計通りに作用していくので、水に関しては、温度さえコントロールできれば、ほかに特別な工夫をしなくても大丈夫です」

アイメック農法のトマト

平地であればどこでもでき、環境にやさしい点もアイメック農法の特徴。養液は根がすべて吸い上げるので排液が出ず、循環設備や殺菌設備は不要。土を全く使っていないため、農薬の使用量は最小限です。

高まるアイメック農法への関心と期待

――現在何名でクボタファーム糸満を運営していますか。

「常駐の専任が3名。それから、収穫時には8名以上・少なくとも4名のパートさんが来てくださっています。ご家族が農家をなさっているなど、ある程度の経験をもつ方が最初から携わっていました。沖縄で将来アイメック農法の導入を考えるならば、トマト栽培の基礎知識が何もないと難しいので、まずはこのような場で1年ほど働いてみるのが、無難だと思いますよ」

――アイメックへの挑戦に興味をもつ方が、増えているのですね。

「『クボタの面白い取り組みが、沖縄で話題になっている!』と、多くの方がこれまでに施設を見学されています。特殊な農法で初期費用はかかりますが、土づくり不要の“誰でもできる”アプローチ。地域活性化にもつなげるつもりで、ぜひ挑戦していただきたいです。
今日も、農家さんがご家族で熱心に見学していかれました。開設までしばらく私たちと働いて勉強しながら、あるいは国や市町村の補助金を得る方法を一緒に模索して、具体的に検討しないかと提案し、現地調査に赴く約束をしました。こうして有志が現れ、オープンするところまで至り、広がっていけばいいな…… と願っています。そうすれば、栽培期間も現状より延ばして、生産量も増やし、より付加価値を生むところに出荷できて、『もっと地元産のトマトがほしい』とお求めの方にたくさん商品を届けられる。そんな未来図を描いています」

――生産量はどれくらいですか。

「初年度が約7トン、2年目の今年は天候不順ながらも、現時点で約11トン出荷しました」

――一般的なミニトマトとクボタファーム糸満のフルーツトマトの価格の違いは?

「変動あるものの、国産は沖縄で大体1玉30円強・1パック約200円。私たちのものは1玉50円くらい・1パック約300円だから、相当高めだと認識しています。でも美味しいでしょう。トマトを料理に使うとき、あまり糖度は気にならないじゃないですか。一方、サラダのアクセントとしてトッピングするには、甘みが強くはっきりした味の方が好まれます。それに、青臭いとお子さんがなかなか食べてくれなかったり、大人も結構苦手だったりしますね。フルティカは青臭さがなくておいしいので、一度味わえば、高くてもリピートしていただけるんですよ。嬉しいことにそれは全国共通らしく、クボタファーム糸満のトマトは今年、北海道・関東に進出して好評を得ています。3年目はもっと生産を拡大して、他県ができていない時期にアピールすることが、目標のひとつ。そして近い将来、『沖縄のトマトにまた出会えた! おいしいから、これにしよう』と買っていただけるような、日本中のお客様の心をつかむブランドに成長させたいと思っています」

クボタファーム糸満の取り組みと2年間の成果に関心が集まり、アイメック農法を検討して施設見学に訪れる方が増えています。
暑さ・台風対策を要する一方、冬は低温や雪の悩みがなく、暖房費ゼロ。他県の生産が落ち込む寒い季節に、全国進出を狙います。

■仲卸業者・レストランに聞く、地元で“選ばれる”強み
大玉・中玉・ミニ・超ミニの多様なサイズ展開に加え、赤や黄色の鮮やかなカラーバリエーション。糸満市のスーパーで青果売り場を覗くと、全国各地で生産されたさまざまなトマトがひしめき合っています。その一角とは別個に、沖縄県糸満市産フルティカトマトのバスケットが設置され、お店からの信頼・購入者の安定した人気を物語っていました。

「価格よりも、この味!」とお客様。他県や県内別産地の広い選択肢のなか、クボタファームのフルティカが選ばれています。

「クボタさんのトマトは何といっても、おいしいさが抜きん出ているため、お取引しています。最初は価格がちょっと不安でした。しかし、お客様は『値が張っても味に価値がある』『他県から仕入れて時間の経っているものよりも、フレッシュな地元産を』とお求めになります。初めて店頭に出したときは、2時間もしないうちに完売しました」と仲卸バイヤー・売り場担当。当時の驚きは、いまだに鮮烈な様子です。
高値の商品ゆえ、リピーターを作れるか否かが存続のカギを握るも、味の良さで難なくクリア。ビジネスホテルのレストランでは、ほほえましくも凄みすら感じるエピソードを伺いました。

レストランでは頻繁に「甘くておいしい。このトマトの産地はどこ?」と尋ねられるほど好評、お目当ての常連客も。

「お客様に喜ばれる地元産のものを暑い夏季にも召し上がっていただきたく、クボタファーム糸満のトマトを使い始めました。反響はすこぶる良く、『このトマトの産地は?』といつも尋ねられます。朝食ブッフェのサラダバーで、フルティカを味わうのを楽しみにされている常連の宿泊客もいらっしゃいます。そこまで人気の際立つ食材は、ほかに思い当たらないですね。天候の問題や生産量の兼ね合いもあるでしょうが、これからも期待しています」

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