未来の中山間地域の農業を考える、養父(やぶ)農業特区での取り組み

2017 . 07 . 31 / Mon

LIFE

話題の“戦略特区“は、実際何をしているのか 未来の中山間地域の農業を考える、養父(やぶ)農業特区での取り組み

文・写真=クボタプレス編集部

日本の美しい原風景の一つである棚田。四季折々にさまざまな表情を私たちに見せてくれます。

兵庫県養父市(やぶし)にある別宮(べっくう)の棚田は、日本を代表する景勝地の一つ。目の前には、兵庫県と鳥取県の境となる氷ノ山(ひょうのせん)が雄大にそびえ立ちます。

別宮の棚田 写真提供:一般社団法人やぶ市観光協会

棚田は元来、日本の中山間地域と呼ばれる山あいの地域で、山の傾斜を利用した農法によって古くから作られてきました。広い耕作面積を取りづらく、日々の作業には険しい斜面が体力的にこたえ、簡単に農業ができる土地ではありません。

この土地と向き合い、どのように農業を営んでいくかは、日本農業の不変的なテーマでもあります。

政府は2014年、冒頭で紹介した兵庫県養父市を国家戦略特別区域(中山間農業改革特区)に指定しました。各地から多岐にわたるトピックごとに地域を選定して、国内産業全体が抱える課題の解決にむけ規制緩和や企業の積極的な介入などを促し、日本の国際的な競争力を強化することが、戦略特区の狙いです。

島国ニッポンは耕地の約4割が中山間地域

養父市は「中山間地域農業における改革拠点」として、農家の戸数減少や高齢化に伴う中山間地域の農業を復活させていく使命のもとに始動。戦略特区の制度を利用し、耕作放棄地となっている土地の再活用や、農業生産法人・企業が新たに参入しやすくすることで、日本の農業が直面する課題に取り組んでいます。

「クボタeファームやぶ」も、新たに試みられた法人の一つ。2016年の1月に、農業機械販売会社の近畿クボタ(現 東海近畿クボタ)と地元の生産者や行政の連携でスタートしました。

立ち上げ以来、養父市の休耕地を利用した稲作や畑作に加え、ビニールハウスでのトマト栽培に力を入れています。特にトマトは、2017年5月に日本野菜ソムリエ協会が実施する品評会「野菜ソムリエサミット」で、金賞と銀賞を受賞。初めての生産、しかもたった半年で、どうしてこのクオリティを生み出せたのか? 中山間地域の農業課題の解決として、なぜトマト作りに着手したのか? 実際にクボタeファームやぶの方にお話を伺いました。

この場所だからこそ、日本の農業を支えたい。農機メーカーが提案できることを考えた

「僕らの目指すところは、『農産物を栽培して、販路も作り、高い価格で販売して収支を合わせていく』という一連の流れを、まるごとお客様に提供すること。土地を持っていて、トマトを作りたいというお客様がいたら、道具もノウハウも全部こちらにありますのでどうぞ、と言えるようになることです」
そう語るのは、農場運営を立ち上げから現在まで指揮してきたクボタeファームやぶのファームディレクター、梶原理史さん。

「中山間地域では、北海道のように広い耕地を取ることが難しい。とはいえ、耕地の4割を中山間地域が占める日本の農業においては、死活問題といっても過言ではありません。平らな耕地面積が狭くて生産量が出せなくても、作物そのものに付加価値をつけて、採算が取れる農業を模索しました。結果、小スペースでも可能なビニールハウスによる施設農業で、土壌を選ばず糖度の高いトマトを栽培する、アイメック農法*による生産を始めることになりました」

クボタeファームやぶは兵庫の山あいにあり、文字通り中山間地域での農業にとりくんでいる

農家の減少が進むなか、差し迫った問題として、新規参入しにくいという現実があります。長年自然と向き合ってきた経験がモノを言う専門の分野に、未経験者がいきなり飛び込み、さらに事業として成り立たせていくことを考えると、新たに踏み出すことに躊躇する人も少なくありません。

そこで、初めて農業を取り組む人にも結果が出せる農法を模索した結果、ハウス栽培で管理がしやすく、難しい土作りが不要で、高品質なものを作れるアイメック農法にたどり着きました。しかし導入しやすくても、商品として価値のある農作物をすぐ生産することなど、本当にできるのか? そこが最も気になるところですが、それを裏付ける野菜ソムリエサミットの金賞・銀賞ダブル受賞。しかも、初収穫での受賞はなおさら驚きです。

「(トマトのアイメック栽培を行っている)農業生産法人アグリ中九州でまず1ヶ月ほど学んで、2016年の1月にクボタeファームやぶに着任したんです。僕と東海近畿クボタ・事業戦略推進部の高橋、地元から通ってくれるパートさん、東海近畿クボタから出向してきている若いスタッフたち、みんなが初心者。すべてをゼロから作っていきました。アイメック農法という管理しやすい方法によるところも大きかったですね」(梶原さん)。

より多くの人に農業に関わってもらいやすくするためにも、いわば農業初心者チームが実際に自分たちで考え、どうすれば現状を改善できるのか取り組み続けた成果が、これほどしっかりと実を結ぶというのは、日本の農業の目指す姿とも言えそうです。

管理するだけでは測り知れないこと、“農家の勘”の奥深さ

ここまでの話を伺うと、アイメック農法による徹底した管理ですべてがスムーズに進んだかのように見えますが、難しかったところはなかったのでしょうか?

クボタeファームやぶのファームディレクター梶原理史さん
東海近畿クボタ・事業戦略推進部の高橋萌さん

「たとえば、トマトがどの程度赤くなったら収穫して良いのか、最初のうちは判断にとても苦労しました。人によって『やや青い』と『もう赤い』の感覚って、少し違いますよね? やや青いトマトは味がいまひとつ。私たちのブランドでは、本当に良いトマトだけを売っていきたいので、厳しく選んでいたんですが、スタッフがみんな判断に迷って疑心暗鬼になってしまうこともありました。最終的には、全員でコミュニケーションを取って共有認識を持ちながら、ひたすらトマトを見て経験を積むしかなかったですが、やはり“農家の勘”というというか経験がものをいう場面はあるんだなと感じました」(高橋さん)。

トマトの収穫
トマトの収穫のタイミングなどは、ひとつひとつ手作業でチェックしている
ミーティングの様子
作業についてのミーティング。収穫のタイミングなどの情報共有も行われる

徹底的な管理によって栽培しやすくなったとはいえ、自然を相手にする以上、経験や勘に頼らざるを得ない部分がどうしても出てきます。将来的にはそういったノウハウもしっかりと伝えられると、経験の浅い人にも良い指針となるのではないでしょうか。

クボタeファームやぶ、そして戦略特区に指定された養父市の取り組みは、日本の課題である農家の減少、休耕地問題、耕作地の多くを占める中山間地域における農業効率化の課題に真っ向から励んでいます。養父市のなかでも認知されつつあり、すでに休耕地となってしまった土地を所有される方や、そろそろ農業を引退しようと思っている方から、ぜひ有効活用をと協力的な提供が増えてきているそうです。

今回の取材を通して、これらの試みは日本を支えてきた農家への新しい提案でもあり、まだ課題を含むものの、土地の環境や経験の壁に阻まれ超えづらかった「農業を始める」という挑戦をグッっと身近にするのではないか、と編集部は感じました。実は山間の休耕地だけでなく、同じように耕作面積が取りづらい首都圏でも、より本格的な農業ができるようになるかもしれません。もしかしたら近い将来、大都市のど真ん中でも家の隣はトマト畑……なんてことが日常的な風景に変わるかもしれませんね。

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